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2013年02月04日

【本】 国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ

国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ (小学館文庫)国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ (小学館文庫)
河治 和香

小学館 2007-05-10

 前作「笹色の虹」が評論家に絶賛された新鋭が、鉄火肌の浮世絵師国芳と、能天気な弟子たちの浮世模様を娘の女絵師登鯉(とり)の目から描いた、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第一作。
 国芳の娘登鯉は、刺青が大好きで博奕場にも平気で出入りするような<侠風(きゃんふう)>な美少女。
 一方で、天保の改革を鋭く諷刺した国芳は、とうとう北町奉行所に召喚されてしまう。「そのサスペンスの舞台である奉行所の白洲に遠山金四郎を登場させるに及んで、時代小説の新たな書き手としての河治和香の腕が冴えわたる。それは読んでのお楽しみだ」(解説・篠田正浩)

現在でも非常に人気のある浮世絵師、歌川国芳の娘登鯉(とり)を主人公とした時代小説。
軽快で洒脱な江戸っ子気質の国芳とその弟子たち、そして主人公の恋模様などが、幕末の江戸の町人風景の中に織り込まれた作品で、気軽に読める小説でありながら、国芳の有名な絵の背景なども理解できてしまう秀逸な本でした。

国芳の絵に興味がある人には、とてもお勧めの小説です。

時は天保12年(1841)、現在の日本橋人形町あたりにある玄冶店の国芳の家を中心に物語が始まります。
その頃は、老中水野忠邦の天保の改革によって、江戸庶民にも贅沢が制限される禁止令が数多出て、例えば正月の凧は大凧禁止、彩色豊かな凧も禁止など、様々な制約が出ていたようです。

1章の「生首」は賭場の<御奉行>と呼ばれる人のエピソードから。なぜこの物語がこのエピソードで始まるのかは、ずっと後になってわかります。
「生首」の物語は、そのまま南町奉行の権力争いに発展していきます。
まずはジャブ的なお話。

2章の「紋紋」で、国芳の経歴やなぜ有名になったのか、弟子との関係などが徐々に解説されていきます。また、主人公登鯉の恋心も。また、国芳の絵が爆発的な人気になったため、刺青(彫物)に革新的な変化をもたらしたのだとか。一方で、国芳の浮世絵観は浮世絵ってぇのは、この浮世をそっくり絵にしたものさ。だからじっくり浮世の苦労をした者じゃねぇと、いい絵は描けっこねぇんだ。ただ筆ばかり握っていたってダメってことよ(PP.108-109)だそうです。
国芳を理解する上で重要な章。

3章は風俗よりなお話。絵師は風俗と無関係ではいられないようで、主人公の登鯉も春画を書いたりします。そこにニーズがあるから、書く絵師がいるんですね。
女湯の絵を書くために、女湯で三助をしている国芳に爆笑。

4章あたりから、この小説のテンポが良くなってどんどん話にのめり込んでいきます。
4章は千社札の話。寺社巡りをしていると、門やお堂に名前等が書かれている紙が雑多に貼られていますが、あれが千社札。千社札に自分の名前や渾名をかっこよく書いてもらうため、ここでも絵師が活躍していたそうです。よく見てみると、あの千社札のデザインもきれいなものがありますよね。
主人公の恋もここで一気に発展!

5章は結構すごいです。
天保の改革のあおりで「贅沢」と名のつくものがことごとく禁止になったのだとか。金銀はもとより、鼈甲の簪や革の草履の鼻緒など。両国の花火も禁止。ネズミ花火も禁止。これを見ていると、不況だといわれる現在の日本なんかよっぽどマシに思えますね。
そうはいってもしたたかに絵筆を握る国芳。その辺りの世渡りと頓智がすごく痛快です。歌舞伎の役者絵が禁止になったら、猫の絵を描いてその顔を役者に似せてみるとか。禁止されているものを、うまく他のものや場面に置き換える手法が見事です。国芳の絵には、そういうものも多いんですね。クジラの絵も、実は●●をクジラとして描いたようです。時代が悪すぎらぁ。だが、登鯉よ・・・だから面白ぇんだぜ。(P.250)
一方で、人が簡単に死んでしまう、人の死がすぐ隣にあるというのも、江戸時代の町人生活であり、またこの小説の描き方でもあるようです。
最後は「遠山の金さん」で有名な遠山金四郎景元が登場します。そのシーンもまた、痛快で見ものです!

【目次・メモ】
  1. 生首(なまくび)
    • 見出しの浮世絵は、河鍋暁斎の『暁斎幼時周三郎国芳へ入塾ノ図』。(P.4)
    • 国芳の家は新和泉町、通称玄冶店。(P.16)
      現在の日本橋人形町3丁目あたり。
  2. 紋紋(もんもん)
    • 見出しの浮世絵は、歌川国芳の出世作『通俗水滸伝豪傑一百八人之一個 九紋龍史進』。(P.44)
    • 歌川国芳の弟子の芳春こと生田幾三郎が幼少の頃、湯島聖堂で行われる素読吟味で優秀な成績を修めたエピソードあり。(P.92)
  3. お侠(おきゃん)
    • 見出しの浮世絵は、歌川国芳の『大願成就有ヶ滝縞』。(P.112)
    • 猫好きな国芳が、いなくなった猫を探すために詣でたのは、猫探しに霊験あらたかな三光稲荷。(P.115)
    • 回向院には、犬猫の畜生塚があった。(P.115)
  4. 口吸(ちゅう)
    • 見出しは、交換用の「天下一 乃げん」の千社札。(P.164)
    • 国芳の娘登鯉の恋人が増上寺の御霊屋の「文昭院殿」の額に千社札を投げ貼りする。(P.200)
  5. 化物(ばけもの)
    • 見出しの浮世絵は、歌川国芳の『源頼光公館土蜘作妖怪図』。(P.222)
  6. 解説 篠田正浩

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